昨夜、日本時間の午前9時が近づくころ、世界の金融市場が固唾を呑んで一つのニュースを待っていました。米国東部時間の午後8時、トランプ大統領がイランに突きつけた期限です。「ホルムズ海峡を開かなければ、今夜攻撃する」という最後通牒で、その90分前まで原油価格は1バレル117ドルまで跳ね上がっていました。ところが期限の90分前、状況が一変しました。トランプが「2週間の休戦に合意する」と発表し、イランも「2週間、ホルムズの通航を認める」と応じたのです。その瞬間、原油価格が6年ぶりの大きさで一日に15%以上下落しました。日経平均株価は一日で2,800ポイント以上急騰しました。いま、この記事を読んでいる皆さんのNISA口座も、昨日と今日のあいだに、少なくない変化が生じているかもしれません。何があったのか、なぜ原油がこれほど大きく動いたのか、そしてそれが皆さんの生活費やNISAにどんな意味を持つのか、一つずつ見ていきます。
原油価格が一日で15%下がった理由

原油価格には、二つの要素が混ざっています。一つは「いま実際にどれだけ原油が供給されているか」という現実の量。もう一つは「これから供給が止まるかもしれない」という不安の値段です。この二番目を専門用語で「リスクプレミアム(危機上乗せ分)」と呼びますが、かみ砕いて言えば「念のために上乗せしておくお金」のことです。
この5週間、ホルムズ海峡が封鎖されていたあいだ、世界の原油供給量のおよそ20%が動けない状態でした。すると原油価格には、実際の供給不足分に加えて、「さらに悪化するかもしれない」という不安の値段が大きく上乗せされていました。その上乗せ分は1バレルあたり約14ドルにのぼるという分析も出ていました。ところが昨夜、休戦のニュースが流れた瞬間、この不安の値段が一気に抜け落ちたのです。価格の変化がこれほど大きく、速かった理由はここにあります。実際に原油がすぐ流れ始めたわけではなく、「これから流れるかもしれない」という期待だけで、不安の値段が消えていきました。
難しく感じましたか?こう考えてみてください。大雨の予報が出ると傘の値段が上がります。でも急に「晴れ」に変わると、実際に雨が止む前から傘の値段が下がります。昨夜の原油市場で起きたことは、まさにそれです。
これが皆さんのNISAとどう結びつくのか、気になりますよね。原油価格が下がると、航空会社・運送会社・メーカーなど、エネルギーコストがかさむ企業の収益見通しが改善します。そういった企業の株価が上がり、それが指数全体を押し上げます。今朝の日経平均が5%以上上昇したのは、まさにこの流れです。
世界はこのニュースをどう受け止めているのか

アメリカ——安堵はしても、まだ警戒は解いていない
米国市場は、期限前の取引時間中はほぼ横ばいで引けました。劇的な結末が出るまで、投資家たちが動けずに見守っていたのです。その後、夜間の先物市場(翌日の株価をあらかじめ売買する市場)でダウ先物が1,000ポイント近く急騰し、安堵感が一気に表れました。ただ、市場関係者のあいだでは「2週間の休戦は解決策にはならない」という慎重な声も同時に出ています。イランと米国が求める条件があまりにかけ離れているため、2週間後に交渉が決裂すれば、市場が再び混乱に陥りかねないという見方です。
NISAとの接点:米国株中心のNISAポートフォリオは、今日の値上がりの恩恵を受けている可能性が高いです。ただし「2週間後」という期限がある以上、この上昇が続くかどうかは見守る必要があります。
ヨーロッパ——エネルギー危機から、ひと息つく
ヨーロッパは今回の戦争で、最も大きなエネルギーショックを受けた地域の一つです。カタルからやってくるLNG(液化天然ガス=気体の天然ガスを極低温で液体にして船で運ぶ燃料)がホルムズを通って届くはずだったのに、それが止まり、昨冬を経てヨーロッパのガス在庫はすでに底をつきそうになっていました。休戦でLNG輸送が再開されるかもしれないという期待が広がり、欧州中央銀行(ECB)が利下げに動ける余地も戻ってきました。物価が落ち着けば、金利を下げる余裕が生まれるからです。
NISAとの接点:全世界分散型の投資信託(たとえば全世界株式インデックスファンドなど)を持っていれば、ヨーロッパからの上昇効果もあわせて受けることになります。
日本——エネルギー輸入大国が、最も大きな恩恵を受けた
日本にとって、今回のニュースはとりわけ大きな意味を持ちます。日本は使うエネルギーのほぼ全量を海外から買ってこなければならない国です。中東からやってくる原油やLNGがなければ、工場が止まり、電気代が上がり、物価が跳ね上がります。ホルムズ海峡が封鎖されていたこの5週間は、日本経済に見えないところでじわじわと重荷が積み重なっていた時間でした。今朝の日経平均が史上3位の日中上げ幅を記録したのは、その重荷が少しでも軽くなった安堵感が、数字になって表れたものです。
興味深いのは、円の動きです。昨日まで1ドル159円台後半まで円安(円の値段が下がること)が進んでいましたが、今朝は158円台に戻ってきました。円の値段が上がったということは、1ドルを買うために必要な円が少し減ったということです。原油価格が下がることで、日本がエネルギーを買うために使うドルが減るという期待が、円を強くしました。
ただ、日本銀行(BOJ)の次の動きはより複雑になりました。4月28日の会合を前に、市場では「利上げ(金利を引き上げること)確率70%以上」という見方が出ていましたが、原油価格が下がると物価の上がり方が鈍くなる可能性があり、そうなれば急いで利上げをする理由が薄れます。日本銀行が利上げを見送れば、円高がこのまま続かないかもしれません。
NISAとの接点:日本株を中心にNISAに組み込んでいれば、今日の値上がりの恩恵を直接受けます。一方、米国株中心のポートフォリオなら、円高が進んだ分だけドル建て資産の円換算価値が少し目減りする面もあります。
韓国——半導体大手が最も大きく動いた
韓国の総合株価指数(KOSPI)は今朝5.9%急騰し、サムスン電子が7%、SKハイニックスが9%以上の上昇となりました。半導体の会社が原油価格の下落でなぜ上がるのか、不思議に思われるかもしれません。理由は二つあります。まず、エネルギーコストの低下です。半導体工場は莫大な電力を使うため、エネルギー価格が下がれば電気代の負担が軽くなります。そしてより重要な理由として、「リスク資産を買っていい」という雰囲気が戻ったことが挙げられます。戦争への不安が薄れると、投資家は安全なドルや金のかわりに株式を買い始めます。半導体のような値動きの大きな銘柄は、そういう局面で最も早く、大きく動く傾向があります。
NISAとの接点:韓国株を直接持っていなくても、グローバルな半導体関連ファンドやテクノロジー株のETFを持っていれば、この流れの間接的な影響を受けることになります。
中国——静かな受益者だが、仲介には動かなかった
中国市場も1.95%上昇しました。中国はイラン産原油の最大の買い手の一つで、ホルムズが再開されれば中東からのエネルギー調達が安定するという期待が反映されました。一方で、国連安全保障理事会でイランのホルムズ封鎖停止を求める決議案に、ロシアと中国が拒否権を行使しています。今回の休戦交渉でも、中国は直接の仲介役には立たず、その役割はパキスタンが担いました。
NISAとの接点:中国株を直接組み込む商品はNISA口座で選べる種類が限られています。むしろ「新興国全体のインデックス」に間接的に含まれている形が多いです。
新興国(インド・ブラジルなど)——エネルギー輸入国は安堵、産油国は頭を抱える
インドはエネルギーのほとんどを輸入に頼っているため、原油価格の下落で直接の恩恵を受けます。政府がエネルギー補助金に使う予算の負担が減り、企業の生産コストも低下する可能性があります。一方、ロシアやブラジルのように原油を輸出する国々は、原油価格が下がると収入が減ることになります。ブラジルのレアルやロシアのルーブルは原油価格と連動して動きやすい通貨のため、こちらは恩恵とはいえない展開です。
NISAとの接点:新興国分散型のファンドは国ごとに状況が分かれるため、全体としては緩やかな上昇にとどまるケースが多いです。
ホルムズ休戦が生活費とNISAに届くまでの道筋
この出来事がどんな経路で皆さんの日常に届くのか、順番に一つずつたどってみましょう。
アメリカとイランが2週間の休戦に合意しました。イランがホルムズ海峡を2週間開けることにしました。海峡が開くと、そこで足止めされていた船が動き始めます。船が動けば、原油が再び市場に届くかもしれないという期待が生まれます。その期待だけで、原油価格に上乗せされていた「不安の値段」が抜け落ちます。原油価格が下がると、ガソリン・灯油・航空燃料など、エネルギー全般の価格が下がる可能性が出てきます。エネルギー価格が下がると、物価全体の上がり方が鈍くなります。物価の上がり方が鈍くなると、中央銀行が急いで金利を上げる理由が薄れます。金利が安定すると、企業がお金を借りるコストが下がり、収益見通しが改善します。収益見通しが改善すると、株価が上がります。株価が上がると、NISA口座の中のファンドの価値が上がります。
ただ、この流れのすべての入り口に「2週間の休戦」という条件がついています。2週間後に交渉がうまくいけばこの流れが続き、決裂すれば最初からやり直しです。
この休戦をどう見るか——トランプのパターンと、2週間後
一つ、目に留まることがあります。今回の休戦は、トランプ大統領がイランに期限を設定した四度目のケースだということです。3月末にも、4月初めにも、そして4月6日にも「最終期限」を宣言しながら、交渉が続いているという理由で延長してきました。ウォール街ではこのパターンを「TACO(Trump Always Chickens Out=トランプはいつも引き下がる)」と呼ぶようになっています。市場がこのパターンに慣れてきているということでもあります。
とはいえ、今回の休戦を軽く見ることはできません。イランと米国のあいだに残る溝は、まだ非常に大きいのです。イランは米軍の中東からの完全撤退、制裁の全面解除、戦争被害の賠償を求めています。米国はイランの核放棄を要求しています。2週間でこの溝を埋めるのは容易ではありません。交渉が進むあいだ、市場がどう反応するかが、この2週間の焦点になります。
これが自分のNISAとどう関わるのか、と思われるかもしれません。関係はあります。ただ、いまの時点でNISAポートフォリオをすぐに変えるべき理由はありません。今日の値上がりと同じように、明日のニュース次第でまた揺れる可能性があります。こういうときほど、大きな流れを見る目が大切です。
昨夜の午後8時、あの90分間の意味
昨夜、米国東部時間の午後8時まで90分を切ったころ、トランプは「2週間の休戦に合意する」と発表しました。戦争が終わったわけでも、ホルムズが完全に開いたわけでもありません。イランは依然として船1隻あたり200万ドルの通行料を求めており、交渉はようやく緒についたばかりです。それでも市場は、あの90分間を生み出したこと自体に、大きく反応しました。
「不安の値段」が一日で抜け落ち、原油が15%下がり、日経平均が歴史的な上昇幅を記録しました。それが皆さんのNISAとどうつながるのか、この記事ではその経路をたどってきました。
この記事で覚えておきたいこと、ひとつだけ
原油の価格は、実際の供給量だけでなく、「これからどうなるか」という期待だけでも大きく動きます。そしてその期待の変化が、日経平均とNISA口座の価値に、一夜のうちに反映されます。
これからの2週間、交渉のニュースが出るたびに市場が揺れるでしょう。皆さんは、どのくらいの値動きまで「じっと見ていられる」と感じますか?その感覚を一度確かめてみること——それが、いまNISAで投資している方にとって、一番必要なことかもしれません。
2週間の休戦でホルムズ海峡はすぐに開通しますか?
完全な開通にはまだ時間がかかる見通しです。イランは船1隻につき200万ドルの通行料を求めており、実際に大量の船が動き始めるまでには技術的な調整も必要です。市場の期待は先行していますが、実際の原油供給が戻るまでには数日から数週間かかると見られています。
今日の日経平均の急騰は続くのですか?
今後の動きは、2週間後の交渉結果に大きく左右されます。交渉が順調に進めばこの流れが続く可能性がありますが、決裂すれば再び不安が高まる局面が来るかもしれません。短期的な値動きを読んで売買を繰り返すより、長い目で積み立て投資を続けることがNISA本来の使い方です。
NISAで米国株を持っていますが、円高になると損をしますか?
円高は、ドル建ての米国株を円に換算したときの価値を目減りさせる効果があります。たとえば1ドル160円のときに買った株が、1ドル158円になると、同じドル建て価格でも円換算の手取りが少なくなります。ただし、積み立て型のNISAは長期にわたって少しずつ買い続ける仕組みなので、短期の為替変動はならされていく傾向があります。