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昨日の急騰、今朝の下落——スタグフレーションとNISAの関係を整理する

スタグフレーション
スタグフレーション

昨日の朝——日本時間の4月8日——NISAのアプリを開いた瞬間、いつもと違う数字が飛び込んできた方も多かったのではないでしょうか。日経平均は一日で5%以上上がり、原油価格は16%以上下がりました。コスピは約7%、ドイツの株価指数は5%、フランスの株価指数は4.5%上昇しました。6週間にわたって世界経済を重く押し下げていた緊張が、一夜で解けたかのような日でした。なぜそうなったのか、そして今朝のアジア市場がなぜまた揺れているのかを、順を追って整理していきます。

昨日の急騰の理由はひとつです。トランプ大統領が米国東部時間の午後8時というデッドラインの直前に「イランと2週間の休戦に合意した」と発表し、イランもホルムズ海峡(世界の原油の約20%が通過する狭い水路)の通行を2週間許可すると表明しました。6週間にわたって止まっていた原油供給の息が少し吹き返したのです。原油価格が急落し、市場は即座に反応しました。

ところがその同じ時間、FRBは別のことを言っていました

市場が急騰していた4月8日の午後2時(米国東部時間)、米国の中央銀行であるFRB(連邦準備制度)が静かに一枚の文書を公開しました。3月17〜18日に開かれたFRB会議の内容を記録した議事録です。議事録とは、会議が終わってから3週間後に公開される詳細な記録のことです。市場が祝杯を上げているその時間、この文書の中には市場が聞きたくなかった話が詰まっていました。

議事録の核心はこうです。FRBの委員19名のうち7名が「2026年中に金利を一度も下げない」と判断していました。全体としては「物価2%目標の達成は、当初の見通しよりもずっと時間がかかる」と記されていました。なぜそういう結論になったのか。FRBは、イラン戦争による原油価格の急騰と米国の関税政策が重なって、物価を押し上げ続けると見ていたからです。原油が一日で16%下がったとはいえ、戦前の1バレル67ドルから今は94ドルです。まだ40%以上高い水準が続いています。

「物価が上がるのに景気が悪くなる状態」——これをスタグフレーションと呼びます

難しく聞こえましたか?今の米国経済に積み重なっているものを、ひとつずつ見ていきます。

まず、物価が上がっています。3月時点で米国の消費者が「これから1年で物価が3%上がる」と予想しているという調査結果が出ました。米国のガソリンスタンドの平均価格は、1カ月で80セント上がり、1ガロン(約3.8リットル)あたり4ドルを超えました。日本に置き換えると、コンビニのお弁当やスーパーの野菜が1カ月で目に見えて値上がりした、そういう状態です。

次に、景気が鈍化しています。アトランタ連銀が算出する米国の2026年第1四半期の経済成長率の見通しが、年率換算で1%まで下がってきました。昨年第3四半期の4%から、わずか半年で1%まで落ちた数字です。成長が確実に鈍っています。

さらに、失業率もじわりと上がっています。4.3%で、まだ悪い数字ではありませんが、向かっている方向が良くありません。

この三つが同時に起きているとき、経済学者たちはこれをスタグフレーション(物価は上がるのに景気は悪くなるという最悪の状態)と呼びます。なぜこれがFRBにとって悪夢なのか。物価を抑えるには金利を上げる必要がありますが、そうすると景気がさらに悪化します。景気を立て直すには金利を下げる必要がありますが、そうすると物価がさらに上がります。どちらのボタンも安心して押せない状況に、FRBは今追い込まれています。

6カ国は、昨日のこの状況をどう読んだか

スタグフレーションをテーマにしたカントリーボールのイラスト。日本、ヨーロッパ、アメリカが同じ原油・市場ショックに対してそれぞれ異なる反応を見せている。
同じ市場の出来事でも、国によって受け止め方はまったく違います。安堵、慎重、そして遅れてやってくる不安——それぞれの経済圏に異なる感情が同時に現れている瞬間を切り取った一枚です。

アメリカ

昨日の急騰の主役でありながら、FRBの警告を横に置いて祝杯を上げた格好の米国市場でした。市場の不安度を数字で表すVIX指数が22%下がりましたが、戦争前の水準にはまだ届いていません。そして昨日、もう一つ重要な出来事がありました。イスラエルがレバノンに対して大規模な空爆を実施しました。米国はこれを制止せず、NATO加盟国からは「多くの同盟国は米国が期待するほど積極的に支持できていない」という声が上がっています。休戦の当事者であるイランはこの空爆を「米国による休戦違反」と主張しており、今朝のアジア市場の揺り戻しはここから来ています。NISAで米国株を持っている方にとっては、短期反発があったとしても、根本的な不安が解消されたわけではないという点を頭に置いておく必要があります。

ヨーロッパ

昨日最も強く反応したのはヨーロッパでした。ドイツの株価指数が5%、フランスの株価指数が4.5%上昇し、2022年3月以来最大の上げ幅でした。ロシア・ウクライナ戦争以来エネルギー調達を綱渡りで続けてきたところにイラン戦争でガス価格まで急騰していたため、原油急落の知らせはヨーロッパにとって二重の安堵として届きました。ただしヨーロッパは、イスラエルのレバノン攻撃に対して厳しい批判の声を上げています。国連の人権担当高官も「この惨状は到底受け入れがたい」と非難しており、欧州各国政府も同様のトーンです。休戦を歓迎しつつも、地域の不安定さがいつ再燃するかを常に警戒しているのが今のヨーロッパです。NISAでヨーロッパ株ETFを持っている方は、短期反発はあったものの、構造的な問題が続いているという点を念頭に置く必要があります。

日本

G7の中で昨日の原油価格下落の恩恵を最も大きく受けたのが日本です。エネルギーの87%、石油の95%を外国から買ってこなければならない日本にとって、原油の急落はほぼすべての企業コストが下がる信号です。日経平均+5.39%はその反映です。ドル円も159円台から158円台へ、円の値打ちが少し戻ってきました。NISAで日本株ファンドを持っている方にとっては最も直接的な追い風でした。ただしBOJ(日本銀行)は今、深い悩みを抱えています。原油が下がれば日本の物価も落ち着きますが、物価が落ち着けば金利を上げる理由も薄れます。金利を上げられなければ、円の値打ちは再び下がり始める可能性があります。今朝すでに0.6%ほど下落に転じているのは、その不安が早くも顔を出した結果とも読めます。

韓国

昨日のコスピは6.87%上昇し、アジアの中で上昇率が最も高い結果になりました。サムスン電子が7%、SKハイニックスが9%上がりました。戦争開始後に最大の打撃を受けた国が、反発も最大になりました。韓国もエネルギー輸入依存度が高く、半導体産業を中心に置いています。原油の下落は生産コストの削減に直結するため、昨日の上昇には理由がありました。ただし今朝、コスピはすでに1%以上の下落に転じています。NISAで韓国株に連動する商品をお持ちの方には、昨日の数字は良く見えましたが、一日でこれだけ動く市場であること自体が、リスクの大きさを物語っています。

中国

CSI300(中国の大型株指数)は3.5%上昇と、比較的落ち着いた反応でした。中国は原油の備蓄と再生可能エネルギーへの投資のおかげで、今回の衝撃をある程度吸収できていました。ホルムズを通じて輸入する原油の中で中国向けの量が最も多いにもかかわらず、備蓄でしのいできたのです。中国経済が安定しているというよりも、すでに別の問題——不動産市場の低迷や輸出の鈍化——で市場がイラン戦争に敏感に反応しにくくなっているという側面が大きいです。NISAで中国関連ETFを持っている方は、反発があったとはいえ、中国固有の構造的問題は何も変わっていない点に注意が必要です。

新興国

状況は依然として不安定です。イスラエルがレバノンを攻撃したことでイランは「米国が休戦に違反した」と主張しており、休戦は発表から一日も経たずに揺れています。4月10日にイスラマバードで協議が予定されていますが、両者の要求の隔たりはあまりにも大きい。イラン側の要求(米軍撤退・制裁解除・核開発の権利など)と米国側の要求(核放棄・地域影響力の縮小)のあいだの距離は、2週間で縮まる水準ではありません。原油価格は昨日急落したとはいえ、今朝の先物はすでに2.6%戻し始めています。パキスタン、バングラデシュ、フィリピンといった国々では燃料不足の状態がまだ続いています。NISAで新興国ETFをお持ちの方は、構造的な不安が解消されたわけではないということを忘れないでください。

昨日の急騰から私のNISAまで、連鎖をたどってみます

スタグフレーションをテーマにしたカントリーボールのシーン。中央銀行の会議室で、原油価格の下落による安堵とFRBの静かな警告が交錯する瞬間に、アメリカのボールが反応している。
原油価格の下落を市場が歓迎するとき、その足元で静かに積み上がっているリスクには、なかなか気づけないものです。安堵とリスクが同じ瞬間に共存する——そのわずかな間を切り取ったシーンです。

これが自分のNISAとどう関係するのか、気になっている方も多いと思います。ひとつずつ順を追って見ていきましょう。

休戦が発表されました。原油価格が一日で16%下がりました。原油が下がると、企業の運営コスト——電気代、物流費、原材料費——が低くなります。コストが下がれば企業の利益が増えるという期待が生まれます。利益への期待が高まると株価が上がります。NISA口座の数字が大きくなります。ここまでが昨日起きた流れです。

ところがFRBの議事録は、この流れに歯止めをかけています。原油は下がったとはいえ、戦前より40%高い水準が続いています。この水準では物価を完全に抑えることができません。物価が高止まりすれば、FRBは金利を下げられません。金利を下げられなければ、米国に集まったお金が流出せず、ドルの値打ちは高いまま維持されます。ドルの値打ちが高ければ、円の値打ちは相対的に低くなります。円が安くなれば、NISAで米国株ファンドを買うときにより多くの円が必要になります。利益率が数字の上では高く見えても、円に換算すると思ったより少ない、そういう結果になることがあります。

この記事で覚えておきたいこと、ひとつだけ

昨日、市場が祝杯を上げていたその時間に、FRBは静かに「まだ終わっていない」と言っていました。原油価格の下落は歓迎すべき知らせですが、スタグフレーション——物価は上がるのに景気は悪くなるという状態——は一日で解決されるものではありません。そしてイスラエルがレバノンを攻撃したことで、休戦はすでに初日から揺れています。FRBがどちらのボタンも押せない状況が長引くほど、ドルは高い水準を保ち、円は低い水準に留まりやすくなります。

昨日NISAの数字が上向いた方、その数字が続くかどうかは、4月10日のイスラマバード協議の行方と、来週発表される米国の3月物価指数(CPI)の二つに懸かっています。明日の朝、その二つだけ確認してみてください。

スタグフレーションとは何ですか?

物価が上がりながら、同時に景気が悪化する状態のことです。通常、景気が悪くなると物価も下がりやすいのですが、スタグフレーションではその逆が起きます。FRBにとっては「金利を上げれば景気が悪化し、下げれば物価がさらに上がる」というどちらの手も打ちにくい最悪の局面です。

FRBの議事録とはどんな文書ですか?

FRBの委員が集まって金利などを決めた会議の詳しい記録で、会議の3週間後に公開されます。FRBは年に8回会議を開くため、議事録も年8回出ます。今回公開されたのは3月17〜18日の会議の内容です。決定の背景にある委員たちの本音の議論が読めるため、市場は毎回この文書を注目して見ています。

休戦が崩れたら、私のNISAはどうなりますか?

休戦が崩れてホルムズ海峡が再び閉鎖されると、原油価格が再び上昇します。原油が上がると日本への輸入コストが増え、円への下落圧力も強まります。NISAで持っている米国株ファンドは株価が下がる可能性があり、さらに円安が進めば円換算の資産価値にも影響が出ます。ただし現時点では、休戦崩壊がすぐに損失に直結するわけではなく、段階的に影響が広がる流れになります。まずはイスラマバード協議の結果を落ち着いて確認するところから始めるのが、最初の一歩です。

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